光明の魔女  5.遮光の対面




長い間、間近で見ることのなかった城。
以前の城の内装を思い出してしまい、 今から贅沢し尽くされたこの城に入ると思うと気が滅入った。
だが今更引き返すこともできない為、 改めて見てみたが以前と微塵も変わる事無く、悠然と聳え立っていた。
森から出ないで暮らしている内に色々変わるだろうと淡い期待をしていたが、 それも無駄だった様だ。
何とも他力本願な自分に自己嫌悪してしまう。





***





いざ城に入ってみると、以前と比べ少し落ち着いていることに気づいた。
でもまだ城の中は煌びやかで、ルーチェにとって居づらい場所には変わらなかった。
極め付けには、嫌という程感じる数多の視線。
見定める様にジッと見つめる者。
嘲笑い見下す者。
好意とは言い難い視線ばかりだった。
唯ルーチェを見てみぬふりする者は一人もいなく、注目の的だった。
逆に言うと皆ルーチェを無視できなかったのだ。
だがルーチェにしてみれば無視してくれた方が幾分か気が楽だっただろう。
横を歩いていた男はそうでもない様で、皆がルーチェを見てる事に満足げにしていた。

「どうぞ」

暫く歩き、一つのドアの前まで来ると男はドアを開け、 自分が入るのではなくルーチェを先に入れ様とした。
常にニコニコと不気味な男だが、 馬車の事も合わせ考えると意外に紳士的だ。

促されるまま入ってみると、意外に質素な部屋だった。
1つ1つの物は高級品だが、無駄な家具や装飾品が全くと言っていい程ない。
そして奥にはシンプルと言っていい椅子に座り、忙しそうに書類にサインする人。
少年とは言うのには大人びいており、男性と言うには未だ早いであろう微妙な年頃だった。
ルーチェは一目みて直ぐに、彼が私を呼び寄せた王子だと分かった。

「王子、連れてきました」
「ああ」

見るからに忙しそうな王子は言われて始めて気づいたのだろう、 吃驚しながらもゆっくりと顔を上げた。
ルーチェと王子の視線が交わる。
お互い見つめ合ったまま微動だにしなかった。
心配になった男が声をかけようとしたが、それよりも早くルーチェが口を開く。

「私に何の用?」

敬語も使わず、何時もどうり抑揚のない声で問う。
ルーチェの声は意外にこの部屋に響いた。
呪縛から解き放れたように王子は我に返り、 ルーチェの口調を気にする事無く淡々と言った。

「光明の魔女だな?」
「今は私が光明の魔女だ」
「そうか。城まで態々すまないな」
「そう思うのなら、お前自らくればいい」
「そうしたいのは山々だが、生憎書類が溜まっていてな。今は身動きとれん」

そう言うと肩を竦ませた。
王族だと言うのに敬語を使うどころか、 用があるなら自ら赴くのが常識だと堂々と意見を言うルーチェ。
普通の人が聞いたら非難の声ぐらいあげたかも知れないが、 悲しい事に部屋にはルーチェを迎えに来た怪しい男と王子、 普通ではない者しかいなかった。

「はいはい、2人とも軽い挨拶はその辺にしといて本題にはりましょう」

決して軽い挨拶ではなかったが、 そろそろ本題に入りたいと思っていた2人は大人しく頷いた。

「ああ、その前にどうぞ此処のお座り下さい」

やはり座って話す程長い話なのかとルーチェは躊躇いながらも座る。
男は座ったのを確認し、紅茶も用意しますので少しお待ち下さいと部屋を出て行った。

「俺は光明の魔女の真実の話を知っている」

ああ、やっぱりこの王子は知っていて私を呼んだのだ。