光明の魔女  4.陽光の森林




「私はこれから城に行って来る」

それはもう会えないと言うかの様な口ぶり。
ルーチェにとって逃れられない運命なのだろう。
強い意思を秘めた光明の魔女としての人を圧倒させる瞳。
眩く輝き、まるで光明の光が差している様に少女には見えた。

「もし何か困った事があればこの森に来るといい。 色々助けてくれるだろう」

見とれていた少女ははっと我に返り、 咄嗟にルーチェの服を掴もうとしたがそれも空しく掠っただけだった。
この届く様で届かない距離。
これが光明の魔女のルーチェと少女の距離なのだろうか。

「エルランディ」

今まで絶対に呼ぶことのなかった少女の名前。
如何してこのタイミングなのだろうか。
ずっと呼んで欲しかった少女だが、 呼んでもらったと言うのに嬉しいと言う感情は微塵も感じなかった。
寧ろ空しさや遣る瀬無さを感じていた。

「10年。10年経っても尚、魔女になる気があれば此処に」

囁くように言葉を紡ぎ、ルーチェは悲しげに笑った。
ルーチェはエルランディに魔女ではなく、 ごく普通の村娘として生活を送って欲しかった。
とは言え、光明の魔女のルーチェには魔女になりたいと言う者を試しもしないで、 拒むことは出来ない。
光の精霊との契約違反にあたってしまうから。





***




ルーチェはドアを素早く閉じ、 ニコニコとしている怪しげな男をこの小屋には通さないとばかりにドアの前に立つ。

「おや、もういいんですか?」

返事もするのも嫌だとばかりに小さく頷き、さっさと出発しろと睨みつける。

「いや〜無言で扉を閉められた時は如何しようかと思いましたが、 あんな少ない時間で大丈夫だったんですか? お別れはちゃんとしないと後々大変ですよ。 何だったら数日後でもよかったんですがね? ま、その間貴方が逃げなけいという保障を頂く事になったでしょうが」

この男は直ぐにルーチェが来なかった場合、 エルランディを人質として取るつもりだったのだ。
やはりこの男は抜け目ない。
一刻も早くこの森から出て行って欲しいとルーチェ切に願った。
ルーチェの雰囲気を察してか、男は馬車にお乗り下さいとドアを開けた。
何とも豪華な馬車に眉を顰めて、辺りをキョロキョロと見渡す。

「私はこの馬でいい」

男が口を挟む前に、素早く馬に乗ってしまう。
笑みを崩さず男はそうですかと小さく呟き、 では行きましょうと兵士達に身振り手振りで指示を与えた。
横目で見ながらも、小さく呪いの様な言葉を呟いたルーチェ。
いっけん魔術師の呪文の様で、そうではない言葉。
光明の魔女と光の精霊しが意味も分からなければ、 聞き取ることも出来ない特別な呪。
この精霊達が住む神聖な森と小屋を守り、長年光明の魔女を隠し続けてきた結界だ。
結界は光明の魔女が許可した者と、 光の精霊が認めた者しか通り抜ける事はできないようになっている。
悪しき者は近寄る事もできない代物で、先代が死んでからルーチェが張ったのだ。
そのおかげでルーチェは今まで王族から見つからず生きてこれたのだが、 今回光の精霊がこの兵士達を通した様だ。
何故今だったのかとルーチェは思ったが、 ピアスが熱くなり反応するところから決着をつけよと言う事なのかも知れない。
確かにもうそろそろ時期だと感じていたが、 少女がいる時ではなくてもよかったのにと光の精霊を恨みがましく思った。



列をなしてゆっくりと進んでいく一行。
ルーチェに気を使っているのだろうが、 思わずさっさと進めと言ってやりたくなる程遅い。
城に行くというだけで気分は最悪なのに大勢の兵士に囲まれ、 更にイライラする程の速度で馬に揺られるルーチェの機嫌は最高潮に達し、 重苦しい雰囲気を醸し出していた。
一般の兵士達はそれを威厳だと勘違いし、 ごくりと唾を呑み流石光明の魔女だと畏怖の念と少しばかりの敬意を抱いた。