光明の魔女  3.蛍光の来訪




静かなこの部屋に20代半ば位のまだ若い男が入ってきた。
此処は王子の執務室だがあまり飾りつけがなく、 城の一室だとは思えないぐらいだった。

「王子“光明の魔女”の居場所が分かりました」

今まで忙しそうに書類と睨めっこしていた王子は、 光明の魔女と聞きピックと肩を揺らした。

「そうか」
「今すぐ捕らえに行く準備をします」
「待て、探せとは言ったが捕らえろとは言っていな筈だ」
「しかし、光明の魔女とは悪い魔女なのでは?」

王子は悪い魔女と言う言葉に眉を寄せる。

「悪い魔女ではない」
「そうなんですか。 てっきり、王子は光明の魔女に呪いをかけられてるんだとばかり思ってました」
「何で魔女を探しただけで、呪われたと思うんだ。 俺は彼女に話さなければいけない事があるんだ」

何処か遠くを見る様に目を細めた。
その瞳は何処までも悲しみに満ち溢れ、切なく揺らめいていた。





***





光明の魔女が王子を許さなかった理由に、 私がいなかった間と言ったが、 傍にルーチェはいなかったのだろうか。
ルーチェは最後の遺言を聞いてたと言った。
光明の魔女が捕らえられている間も、 ルーチェが代役として治療していて可能性が高い。
2度目の話もやはり何処か可笑しい。
少女にはルーチェの話が真実とは思えなかったが、 嘘はついていないと少女は漠然と感じていた。

「光明の魔女を受け継いだ魔女は、 きっとこの話をしたくなかった筈なのにかわいそうだね」
「・・・」
「きっと近くで見ていて、光明の魔女とも仲良かったんだね。 じゃなかったら光明の魔女には光明は射さなかったとは言わないもんね」

どう合ってる?と言うかの様に微笑む少女。
ルーチェが間接的に話すせいか少女は、直接ルーチェとは言わず遠まわしに言う。
でもそれは話し終わった後ルーチェが口を噛みしめていたのを見た、 少女なりのルーチェへの気遣いだったのかもしれない。

「そうだね。彼女とは親しいい間柄だった。 師弟でありながら親友の様な関係」
「私もルーチェとそんな関係になりたいな」

ルーチェは口を開こうとして止め、 一瞬ドアを見たかと思うと直ぐに目を伏せ、ごめんと声を出さず言った。
読唇術は使えないが雰囲気で謝っている事は分かったが、 それがまた謎を呼び何が何だか分からず混乱してしまう少女。

「ルーチェ―――」

何に対してごめんなのかと少女の問いを遮る様に、 けたたましい馬の足音とドアをノックする音が聞こえた。
同時にルーチェはパッと目を開き、 花が咲いた様に微笑み少女を抱き締めた。
それも一瞬で、少女から腕を放した時にはもう既に何時もの無表情な顔に戻っていた。



ルーチェがゆっくりとドアを開けると、其処にいたのはかなりの人数の兵士。
目の前には身なりがよく、 あたかもお城で高官として働いてますと言った感じの20代半ば位の男性。

「何の御用だ」

感情の篭らない声で淡々と言うルーチェにも、 眉一つ動かさず気味が悪いぐらいニコニコとしている男性。

「光明の魔女ですね」

疑問ではなくて断定。
ルーチェが頷くと更に笑みを深めた。