「姫様おはよう御座います」
「おはよう。マリアンヌ。今日一日も宜しくね」
「はい、ご安心ください。本日もそのように致します」
私イリダート王国第一王女ジュリエッタ・イリダート、
朝早く起き着替えを済ませれば、
私専属メイドのマリアンヌが来るまで国に祈りを捧げるのが日課である。
普通の姫は着替えや髪を結って貰うのが常識なのだろうが、
私の両親は王族なのに出来ることは一人でやるという教育方針だ。
お蔭で今では髪を結うのもプロ並み。
たまに侍女の髪を結ったりして遊んだりしているけど、
あくまでもお城の中だけのことで一部の人以外には内緒だ。
なんせ今の世の中、侍女に着替えも、髪もやってもらうのが金持ちの常識。
鼻高々の傲慢な奴らは侍女もいないのかと馬鹿にされるだろう。
否、一部の奴に馬鹿にされていた。
原因としては、それだけではないようだが。
馬鹿に馬鹿扱いされて、腸煮え返る思いだ。
もう二度と私の前に現れるなと思っていたのに・・・今日は厄日だ。
「ジュリエッタ姫もそう思いませんか?」
何がそう思いませんかだ。
そうですねとでも言うと思ってるのか。
「そうですわね」
心の中で罵倒してみても、現状ではそんな本音が言えないのが悲しい。
でもこれも国の為なればこそ。
「ふふふ、流石エルランド王子ですわね。
私も各国の王族を集めるなんて、カルディアは如何かと思いますわ」
「それに女性にも学問を広めようなんて、馬鹿馬鹿しい。
女は黙って男に付いて来ればいいんだ。
今までだってそうしてきた、こんな馬鹿げた事が受け入れられる筈がない」
「今までの歴史がありますもの、簡単には受け入れられないでしょうね」
「ジュリエッタ姫も学問なんか学ばなくったて、僕についてくればいいですよ」
「思い出してだけでも腹立たしい。
何が女は黙って男の後ろを付いて来ればいいだ!
しかも私を名指しで学ばなくてもいいと!
私は既にお前何かより博識だ!!それを態々言う何て嫌味か!!!」
ジュリエッタはイライラしながらもマリアンヌの入れた紅茶を優雅に口に含む。
ちょっと口が悪いが流石姫。
伊達に猫を被り17年間品の良い姫をしているだけある。
「ジュリエッタ様、
エルランド王子はジュリエッタ様が学んでいると言うことは知りませんから」
「そうだっけど、私の前で女性の学問を否定するなんて、あいつ絶対私を馬鹿にしているわ!」
「・・・女性の前で女性は唯付いて来ればいいと言われるのは少々問題でしょうね」
「少々どころじゃないわよ。無神経にも程がある!!ところでマリンヌ、
私は今日も何時もの様にエルランド王子は今日も思わぬ事故や用事で、
この城に来れないかもしれないと言った筈だけど?」
「申し訳ありません。
王子はあの悪運の良さで本日は、
強制的にお帰りして戴けませんでした」
何時も遠まわしにエルランド王子が帰える様に手をうっていたジュリエッタ。
いつもより長く滞在されてしまったが、今日も無事追い返すことに成功した。
「・・・そうだったわね。
あの馬鹿王子は悪運が無駄に強いのよね」
「雑魚こそしつこいって事ですよ」
ドアの方を見るといつの間にか来たのか、
長髪で無駄に派手な男と男の斜め後ろに控えた従者らしき人が立っていた。
「エディエール様」
もてなそうと動くマリアンヌを止めて、睨みつける。
「入城許可出した覚えはないけど」
「おやおや、私は貴方の幼馴染ですよ。入城許可何てなくても入れますよ」
「ふ〜ん、そうやって今日もそのお上手なお口で兵士達を丸めて入ってきたわけ?」
「ふふふ、侵害ですね。今日は丸めた訳じゃないですよ。
にっこりと笑って挨拶をしただけです」
今日はというと事がひっかかる言い方だ。
何よりにっこり笑っただけで通してもらえるなんて、何をしたのやら。
そのうち門番達が泣きついて来るかもしれない。
笑顔で門番が脅えるほど彼は真っ黒だった。
「・・・今度貴方を見たら、問答無用で切り付ける様に命令しようかしら」
「そんな事すれば両国に罅が入り兼ねないですよ?」
「オホホホ、そうなったらなったよ」
エディエール付き執事のセシルが危惧するような事にならないのを、
良く知っているジュリエッタはにっこり笑っている、エディエールに目を向ける。
彼エディエールは隣国の王子で、ジュリエッタとは幼馴染的存在だ。
腕も立ち、頭も切れる。
彼自身はそれなりの腕前と言い張っているが、
そこ等辺の兵士ではもはや太刀打ち出来ないのだ。
門番が切り付けた程度ではあっさりかわされるのが目に浮かぶ。
そして顔も恐ろしく整っており完璧な彼は、あろう事かジュリエッタの事を気に入っており、
昔からちょっかいを出してくる。
だが彼は決してジュリエッタが怒るような事はしても、困るような事をしない。
昔からエディエールが嫌いだったジュリエッタは
“今後私を困らせるような事があれば、何があろうと一生会わない”
と言い放ったのである。
エディエールがプロポーズし、ジュリエッタが今までに一番激怒した日であった。
彼女のもっとうは有言実行であり、また本気でしようとすれば出来ないことはないのだ。
何せ現在この国を左右しているのはジュリエッタなのだから。
「で今日は何の用?」
「姫は私の事が気になるんですね」
「全然。ずっとそこにいられると邪魔なのよ。さっさと済ませて帰って頂戴」
ジュリエッタの口からは辛辣な言葉しか出ない。
「恥かしがっちゃって可愛いですね」
無言で睨み、顎でドアをさす。
今すぐ出て行けという意味だ。
「ふふふ、半分は冗談ですよ」
「「・・・目が笑ってませんよ」」
マリアンヌとセシル二人の声が重なる。
二人はエディエールの歯止め役だが、あまり項をなしていない。
「そうそう用件ですよね。
今回正式にジュリエッタ姫の婚約者になりました」
「婚約者?そもそも貴方は婚約者候補にも挙がってなかったでしょ!」
「たった今婚約者候補に挙がって、直ぐ正式に婚約者になったんですよ」
「・・・無理やり通したわね。でもお父様が許す分けないわ」
「確かにイリダート王は駄目だと言っていましたよ。
ですが王妃様があの馬鹿王子・・・コホン、エルランド王子と結婚させるぐらいなら、喜んで差し上げますってね」
ウインクするエディエールを見て顔を歪めるジュリエッタ。
「確かにあの馬鹿王子・・・エルランド王子と結婚するぐらいならと思うけど、
私はこの国を離れられないよの。
何があってもこの国を離れるわけにはいかない」
静かに目を瞑り、まるで義務のように言い捨てる。
「その理由は聞かない方がいいんでしょうね」
「ええ」
「ですがジュリエッタ姫、エディエール様だってもう後がないんですよ。
もう姫を待っている時間はないんです」
「セシルやめなさい。姫はわかってますよ。
姫には分かっていても、如何しようも出来ないんですよ。
歯車が揃い回らないと事をなせない。その機会を窺っていた、そうでしょうジュリエッタ姫?」
「エディエール様?」
話がみえないセシルは言葉の意味が理解できなく、首を傾げるばかり。
一方、何となく思い至る節があるのかマリアンヌは心配そうにジュリエッタを見る。
「さあ、何のことかしら?」
それが答えとばかりに、ジュリエッタは自嘲気味に笑うのであった。