inconsolabile -貴方に会いたくて- (girls sid)



雨のおかげで出会えた彼。 だが皮肉にも私の人生も雨によって幕を閉じた様なものだった。









私達の出会いから終わりまで全て、雨から始まり雨で終わったと言っても過言ではないだろう。










何時も素敵だなと思いつつも、通り過ぎてしまうカフェ。
そんなカフェに入る切っ掛けになったのは雨だった。


カフェに入ると、雰囲気がよくそれに酔いしれボーっとしていた為、 私は男の子の目の前で転んでしまった。
雨で床が濡れていたせいもあったが、 いい大人が前方不注意で転ぶなんて恥かしくて顔も上げられない。


「大丈夫ですか」


男の子に声をかけられるものの、羞恥とぶつけたお尻の痛みで声も出なかった。
なんて馬鹿な女だろう。
そう思っていると、ふと顔を覗き込まれてしまう。
答えない私を不思議に思ったのだろう。
何かに気づいた彼は徐に、自分の鞄から絆創膏を取り出し
「すいません。ハンカチはさっき使ってしまったので、

良かったら此れを使って下さい」


差し出してきた。
お尻の痛みに気をとられていて、膝を擦り剥いていたのに気づかなく、 絆創膏を貰ってやっと気づいた。
一回気づいてしまえば痛みがやってき、素直に絆創膏を貰うことにした。
その際に見た彼の顔は何とも印象的だった。
そして声をかけてもらったのに答えない私に、 尚も親切にしてくれるなんて・・・嬉しいやら、 申し訳ないやら複雑な心境で、私は変な顔をしていただろう。





それからというもの、何気なく彼を探すようになっていた。
彼の事が気になって仕方がなかったのだ。





探すようになって数日後、ようやく彼を見つけることが出来、 秘かに喜んでいた。
ふと外を見ると今日も雨。
私は雨が何となく不吉な気がして、嫌で嫌で堪らなかった。
お決まりの様に他の事に気をとられていた私は、
足元に落ちていた者に躓き、また少年の前で転んでしまった。
彼はどう思っただろうか。
学習しない女だなと飽きられただろうか。
それとも馬鹿な女がまた転んでるよと笑っているだろうか。
兎に角、お礼をと思い必死に此間の事と合わせて頭を下げた。
二回目に見た彼の顔も微笑しており、 いつもにこにこしている温厚な少年だなと思うと同時に胸が高鳴るのを感じた。
此れは恋なのだろうか?
今までに何回か恋愛も恋もしてきたつもりだが、こんなの始めてだった。





最近私の休日と仕事が重なりあまり会えない父が、珍しく大事な話があると帰って来たが 忙しいのを無理したのか、ちょっとやつれていて心配だった。
大切な話とは再婚したいと言う事だった。
母が難産の末私を産み死んで28年、 私ももいい年だし結婚も父が心配で出来ないなと思っていたときだった。
父の面倒を見れる人なんて貴重、 賛成だよと言った瞬間父は満面の笑みでありがとうと泣いていた。
私が反対するわけないじゃない。
私は何時だって大好きなお父さんの幸せを願っているんだから。
そして父の最後の言葉に私は衝撃を受けた。
相手にも子供がいて何と私に弟ができるらしい。
実はずっと弟が欲しかった私。
嬉しくて友達に電話をかけ回り、嬉しいのは分かるけど加減切そのテンションうざいから!と怒られたぐらいだ。
ああ、早く会ってみたい。
きっと可愛いんだろうな。





私達の初の顔合わせの日。
この日も雨でとても不吉な予感がした。


此れから弟となる子に会うのに今日に限って、 どうしても外せない仕事が入っていまい私は慌てていた。
そこでふと目に飛び込んできたのはトラックに轢かれそうになっている子犬の姿。
いつもだったら、助けなかった。
きっと弟となる子にいいところを見せたかったんだと思う。





痛みはなかった。私は即死だったのだろう。



結局子犬を助けられなかったが、庇った事を後悔はしていない。



ああ何でだろう、最後に思い出すのは父の顔でもなく友達のでもない。
カフェであった一人の少年の笑顔だった。



私は弟君じゃなくてカフェで会ったあの少年と、一番会いたかったのかもしれない。





私の人生は激しい雨と共に幕を閉じた。