Fiore -Rose- T



「・・・・・・・かな・・め・・くん」

沈んでいた意識が徐々に浮上する。

「要君もう部活終わりだよ」

完全に浮上したのを確認すると持っていた弓を置き、 隣に置いていたジャージの上着を着込み要にもジャージを渡した。

「冷えたでしょ?」
「・・・うん。ありがとう先輩」
「ふう、弓道は冬でも厚着出来ないのが辛いよね」
「・・・うん・・袖引っかかるから・・・着れない」
「でももうちょっと寒くなったら耐えられないなあ」
「・・・先輩は着た方がいい・・・去年風邪ひいたって・・・」
「えっ何で知ってるの?」
「・・・聞いた」

聞いたって誰から聞いたのだろうか。
ボーとしながらもためになる雑学からいらぬ情報まで知ってる要君には、 毎度の事ながら驚かされる。
今日の事だって部活が終わったのも気づかず、 私がかけるまでずっと弓を引いていた彼。
何時もそうだ。
彼は集中してしまうと周りが見えなくなってしまうのだ。
他人の声が聞こえなくなってしまう程の集中力は弓道にとってはいいことだが、 うっかりしていると次の朝までしていたと言う事も1度や2度じゃない。
それを知ってからと言うもの弓道部の部長である私が、 声をかけるようにしてるんだけど、 皆は前から知っていたようなのに声をかけなかったのだろうか。
聞くに聞けなく今日まできてしまったが、 注意して見てみると私以外の人が声をかけても気づいていない様だ。
私も生徒会の仕事にかまかけて、 部員の事をしっかり見てなかったのかも知れない。



私が今後の対策を練っていると、 要君は片付け終わっていた様で着替えも済ませ更衣室から出てきた。

「じゃあ帰ろうか」
「・・・先輩送って行く」
「大丈夫だよ」
「・・・先輩女の子だから・・・心配」
「あはは、女の子扱いされるの久しぶりだな。 ありがとう。折角だから近くまで送ってもらうことにするよ」
「・・・俺何時も・・・先輩の事・・女の子扱いしてる」
「そうだったの?あ、だから無駄に優しいんだ」
「・・・無駄にって酷い」
「あはは、ごめんごめん。ん〜要君といると面白いよ」
「・・・そんな事言われるの始めて」

要君は一拍置いて話すという独特な喋り方をするが、 其処がまた可愛いい。
そして私の周りには珍しい素直な子で、 言葉も直球だったりするけど面白い。
何故、皆要君の魅力に気づかないのか不思議でならない。
きっと要君との距離が測り難いのではないだろうか。
だから周りは変わってる子だよねと言うが、人間十人十色だ。
私は個性がない人、普通の人の方がいないと思う。
そんな風に思ってしまうのは私が変わっているからだろうか。
否、聞かなくても自覚している。
一般的という基準が分からないが、 兎に角他の人から見ると相当の変わり者だろう。

「もうこの辺でいいよ」
「・・・うん。気おつけて」
「あはは、本当に笑わせてくれるね。私みたいのを襲う人なんていないよ」
「・・・そんな事ない。先輩可愛いから・・・危ない」

要君は最後の危ない辺りで頬を染めた。
何故そこで頬を染めるのだと突っ込みたかったが、 私はその前の可愛いでがらにもなく照れ、 自分でも分かる程頬が赤くなっており言葉が出なかった。

「・・・先輩・・・赤くなってる・・・もしかして照れてる?」
「・・・」
「・・・やっぱり・・可愛い」

可愛い可愛いと繰り返しにこにこと笑う要君を見、 私は赤かった顔がもっと火照り茹蛸の様になっていた。
私を此処まで赤面させるなんて恐ろしい男だ。
私が的の前にいたのを気づかなかったのか、 矢を放たれそうになった事があるが、今回は確りと射止められてしまった様な気がする。